はじめに
世の中には「ロジカルシンキングセミナー」というものが多くあります。しかし残念ながら筆者はロジカルシンキングで一番大切なことを説明しているセミナーに会ったことがありません。また、ロジカルに物事を主張するように強調する人ほど、結果が伴っていないと感じることもあります。筆者の視点では、このようなセミナーも、ロジカルを主張する人も、ロジカルシンキングの神髄を知らない空虚なものにしか見えません。ここでは筆者が考えるロジカルシンキングの怖さについてお話していきます。
ロジカルシンキングが正しければ戦争は起こらない
ロジカルシンキングは誰がやっても同じ解を得る考え方のプロセスです。もしこれが真であるならば、この世に主張の食い違いが起こることはありません。しかし現実には起こります。そして、この主張の食い違いを解消しようと武力に訴えかけるとどうなるでしょうか?戦争です。ロジカルシンキングで一番初めに学ぶべきことは、戦争を防ぎきれなかった歴史ではないかと筆者は考えています。
じゃんけんすらロジカルに説明できない
ロジカルに自信を持っている方は、以下の問題の間違い探しに挑戦してみてください。
- グーはチョキよりつよい。
- チョキはパーよりつよい。
- 上記2つが成り立つので、グーはパーよりつよい。
上記は、ロジカルシンキングの誤った利用方法です。ロジカルシンキングに心酔しきっていると、こういった単純な問題ですら解くことはできません。
一番大切なことは「前提条件」
ロジカルシンキングで一番大切なことはロジカルシンキングを適応させていいか確かめることです。すなわち前提条件、数学的には公理といいます。世の中の事象は複雑であり、ロジカルシンキングを適応させていい世界は非常に狭いのです。先ほどの2つの問題、戦争とじゃんけんについてもう一度考えてみます。戦争は、前提条件となる事実認識に食い違いがあるために起こります。じゃんけんの問題は、みすくみという前提条件のルールに、無理矢理ロジカルシンキングを適応させて考えたことが問題です。前提条件がないとロジカルシンキングは成り立ちません。
できる人のロジカルシンキング
とはいえ、ロジカルシンキングは非常に役立つ考え方のプロセスであることは間違いありません。最初にこの考え方に出会ったとき、衝撃を覚える人も少なくないでしょう。わからなかった問題が劇的に整理されていくプロセスには感動を覚えることも多々あります。実際、できる人はロジカルシンキングを利用します。しかし、できない人もロジカルシンキングを利用します。できる人は、できない人と違い、以下のポイントを押さえたロジカルシンキングを行います。
前提条件の確認があること
できる人はロジカルシンキングを適用させていいものか前提条件を必ず確認します。コンサルティングの現場では、人事・組織系の問題はロジカルシンキングを適応させていいものか特に慎重になります。できないコンサルタントは、前提確認がないまま、人にPDCAサイクルを回すような”愚かな解決策”を提案してしまいます。人にPDCAサイクルを適応させるとどうなるでしょうか?答えは「うつ」になります。PDCAサイクルは基本的には回り続けるものです。人は浮き沈みがあり機械的なサイクルの中に入ると必ず無理が出てきます。それでも目標のサイクルだけはグルグル回り続けるため、ついていけなくなった人は自分はダメな人間だと錯覚を起こすわけです。しかし、会社を辞めると収入もなくなるわけで、この環境から抜け出すことはできません。その結果、うつへと発展してしまうわけです。従業員をうつに育てる会社が業績向上につながることはありません。できないコンサルタントはこのようなミスを犯してしまうわけです。
経験と勘を許容すること
できる人は前提条件を確認したうえで、明確な論拠を元にロジカルシンキングのプロセスを辿ります。一方、できない人は前提条件を確認せず、曖昧な論拠をもとにロジカルシンキングのプロセスを辿ります。でも、もし運良く前提条件と論拠が当たってた場合、できない人はできる人と同じ論理解を得られるわけです。しかし、実際にはできる人の提案とできない人の提案には大きな開きがあります。何故でしょうか?これは、できる人は経験と勘を許容するためです。論理解が経験や勘と剥離していた場合、できる人はロジカルシンキングが完璧ではないことを知っているので、論拠や考え方のプロセスに疑問を持ちます。一方、できない人はロジカルシンキングの解が絶対だと自信があるので、経験や勘を無視します。なので、できない人ほど現実と乖離した考えになってしまうことが多いです。できる人は、ロジックと感性のバランスが程よいです。これはその人のセンスの良さによるところが大きいようにも思います。
ロジカルシンキングの学び方
ロジカルシンキングの怖さがわかったところで、学び方についてお話します。ロジカルシンキングのセミナーにいくと、MECE、帰納法、演繹法などの用語が散りばめられ、あたかも学んだような気がしてしまいます。しかし、これらはどれほどの意味があるのでしょうか?筆者の感覚ではセミナーへ行って学術的知識を学ぶくらいなら、実際に良問を解いたほうが力になるように感じます。
ロジカルシンキングは移民が多いアメリカで、相手を納得させるために出来上がってきた考え方です。実際、入試でも出ます。この本は、ロジカル先進国アメリカのパズル界の老舗「デル・マガジン社」が選りすぐった101問の良問が掲載されています。セミナーに数千円払うのであれば、980円払ってロングセラーである本書のパズルに取り組んだ方がはるかに実践的な考え方が身につきます。
まとめ
ここまでロジカルシンキングの怖さについて、歴史的な背景、前提条件の大切さ、利用できる人と利用できない人の差、学び方を通じてお話してきました。ロジカルシンキングは、ナイフのようなもので、使い方一つで便利な道具にも凶器にも変わります。ぜひ正しい使い方を身につけて業務に役立てて頂けると幸いです。